おいでやす。
ようこそ「京都の話」へご来場くださいました。 今日の話は「ミステリー案内」と題しまして、京都に伝わるマイナーな話をご紹介します。
さて、京都は「794(ナクヨ)うぐいす平安京」でお馴染み、桓武天皇の遷都から江戸開城まで1200年もの間「日本の都」があったことは皆さんもご存知のとおり。
そもそも平安京遷都自体、桓武天皇が廃太子にした早良親王の怨念を避けるために五行説・風水に従って都を造営したと言う、いわくつきの都。 丑寅に比叡山延暦寺、都の入口に東寺(教王護国寺)・西寺(今はない)、東山に将軍塚を建てるなど、「あやかし」や「もののけ」から身を守るために、長岡京をわずか10年で捨てて作ったもの。
そんな都に「妖異」がないのは不思議なぐらいで、怪談や不思議な話には事欠かないのですが、今日は「自分自身がやたら怪しい」人物を紹介しましょう。
この人物、名を「小野篁(おののたかむら)」と言い、嵯峨・淳和・仁明天皇(9世紀前半)の時代に「参議(おかかえ学者みたいなもの)」として朝廷に仕えていた御仁。 京都では色々な逸話が残っている人物ではありますが、代表的なのが2つ。
一つは彼が少年時代の事。 彼の父「小野岑守(おののみねもり)」も参議として朝廷に仕えており、その学識で名を馳せた人物。 しかし息子の篁ときたら、まったく勉強もせず、馬に乗って遊んでばかり。
見かねた時の嵯峨天皇が父・岑守に向かって「ああ、君のような天才学者の子供ですら、馬に乗って駆け回る時代になったか。 世の中も荒れてしまったものだなぁ。」と嘆息したそうですから、偉大な父を持った息子はツライ。
しかし、それを聞いた篁はマセた現代っ子のように「俺とオヤジの人生に関係はない」とは言わなかったようで、学問にも精を出すようになったとか。
そんなある日、篁に嵯峨天皇は一つの「なぞなぞ」を出します。 その問題というのが「子子子子子子子子子子子子子子・・・・・・これを読んでみよ。」(オイ!) 「子」が14個。
比較的有名なお話で、近代・現代の作家も「言葉遊び・感じ遊び」として取り上げることもある「子」の字、回答をご存知の方もいらっしゃるかと。
これを聞いた篁、何事も無かったかのように「猫の子の子猫、獅子の子の子獅子」と答えたそうで・・・判ったような判らんような(笑
このお話は彼の天才ぶりを示す有名な話で、特に怪しいことはありません。 それよりも「苺苺苺」と書いて“まりなる”と読む名前のほうがよほど怪しいわけで。(
子供の名付け(命名)DQN度ランキングより)
怪しいのはここから。
後に篁は天皇以外の人物(?)に天才ぶりを認められ、そこでも働くようになる・・・その人物(?)、当時としては最強の権力者で人々が最も恐れていたでしょうね。
「はぁ、天皇はんより御偉い人どすか? 聞いたことおへんなぁ?」などと京都弁も織り交ぜつつ。 そらそうどすわな。 なんと、この漢、地獄の閻魔大王に仕えていたと言う伝説が残っているんです。 お疑いですね? ごもっともです。 長年京都に住んでいる私が信じていないのですから(笑
伝説によると篁は昼間は朝廷の天皇の下で働き、夜は地獄の閻魔大王の庁へ通っていたとの事。今でも京都東山の六道珍皇寺(ちんのうじ)さんには、夜毎彼が冥界に通うのに通ったと言われる井戸が残っています。
この珍皇寺さんは現在でも冥界に縁が深い所で、京都の人(特に東山界隈の人)はお盆にこの御寺はんへ先祖の霊をお迎えに行きます。 ここの鐘を引いて、水塔婆をお供えして、閻魔さんの像を拝み(!)、お寺の宝である地獄絵(!!)を見て帰るのです。地獄をテーマにしている御寺というのも珍しいですよね。 私も毎度、親に連れられて行ったものです。
どこかで「ちょっと待った」が聞こえました。
「鐘を引く」ですか? 「鐘は突くもんどっせ。引くっちゅうのんは聞かしまへんなぁ・・・・・・。」 そうですね。 でも、引くんですよ、ここの鐘。 鐘楼の穴から綱が出てるんです。 それを冥界から帰ってきて欲しい人の名を、念じながら引っ張るんです。 「帰って・・・、こーい!(ごぃ〜〜〜ん)」と言う訳ですカネ?(ダジャレではない)
この鐘、「慶俊」と言う遣唐使にも選ばれた高僧が鋳たものだそうで、三千世界に響き渡るのだとか。 こうして先祖の霊を呼び出し、お盆の間いっしょに過ごしたら、五山の送り火で霊を送って京都のお盆が終わります。
大文字って、ちゃんと意味あるんですよ? 20世紀を送るなんてハンパな理由で、紅白のイベントに点火しちゃいけないんです。 アレは宗教的なもので、街を挙げてのスペクタクルショーとは違います。(あたりまえ)
この「六道さんの迎え鐘」の行事は8月8日から8月10日の3日間だけの地元民行事ですから、京都にお住まいでも西のほうの方には縁がないようです。 この時期には「清水の陶器市(五条通、東大路通から川端通の間)」も行われておりますので、大変な人手で賑わっています。 行列が好きな方、クソ暑い京都の夏を味わって見たい方は是非、この時期に東山へおいでください。
そうそう。 ムダ話ついでに・・・あなたの身近に「五山の送り火」を「大文字焼き」などと言っているヤカラがいたら、「何処のお菓子?」と聞いてみて下さい。 京都の人は「大文字焼き」と言われるたびに「今川焼き」のようなお菓子を連想しています。 そして、陰でニンマリ笑うのです。 イケズな京都魂発揮の瞬間です(ニヤリ