おいでやす。
ようこそ「京都の話」へご来場くださいました。 今日の話は「京野菜」と題しまして、京都の農作物をご紹介しましょう。
京都と言うのは御存じの通り千年の都でしたから、古来、国の内外からいろいろな文化や物が集まって来る傾向にあります。 特に美術工芸や文化・宗教などが多かったようですが、中には野菜類などの農作物もあったようです。
外から入って来た作物は京都の土と気候で栽培される内に、独特の風味を持つものや独特の形をもつものが生まれ、京都人に親しまれるようになり、京の食文化に馴染んで行ったようです。
京都のお漬け物を特に「京漬け物」なんて呼びますけど、これは京野菜を使っているのが多いんですね。 あの風味と味わいは京都ならではかなと思いますが、そんな野菜だからこそ、栽培するのは大変なんだとか。
京都に来た当初は自然の力で「京野菜」になった野菜達も、そのままでは美味しくなかったり、一定の品質を保てなかったりするのは京都だけに限りません。 「京野菜」がただの野菜ではなく、特産品になった頃から、ただならぬ創意工夫と弛まぬ努力で品種改良が行われ続け、何百年もの時間が流れて来ています。
その伝統、栽培方法を守って作るからこその京野菜なんだそうです。
つい近年も「京ブランド:紫ずきん」なんて名前の枝豆が発売されたのを全国ニュースが取り上げていましたが、これも何百年もの伝統を守った「丹波の黒大豆」と「枝豆」から農家や研究者の皆さんが弛まぬ努力でつくり出した、現代の京野菜。 何百年かけて行われて来た京都の農業の縮図を見るようで、是非、今後末永く「京野菜」として親しまれて欲しいものです。
ところで皆さんはどのくらいの「京野菜」を御存じ?
歴史の古い作物には、地名が付いている事が多いんですが・・・。
桂うり・伏見とうがらし・賀茂なす・鹿ケ谷かぼちゃ・山科なす・丹波栗・堀川ごぼう・聖護院かぶら・壬生菜・九条ねぎ・・・結構有りますね。
「京野菜」に厳密な定義があるとは聞いた事がありません。 恐らく、京都周辺の特産の作物を全般的に指すのでしょうが、私達京都人が「京野菜」と言われて思い付くものは「京都府南部が発祥または名産地と言われている野菜」でしょう。
しかし、いわゆる「京野菜」として京都府の農林水産部が認定する「京のブランド産品」と言うのがありまして、そこでは「京たけのこ・伏見とうがらし・賀茂なす・鹿ヶ谷かぼちゃ・万願寺とうがらし・京山科なす・丹波くり・紫ずきん・やまのいも・堀川ごぼう・えびいも・京都大納言小豆・聖護院だいこん・みず菜・壬生菜・くわい・九条ねぎ・新丹波黒大豆・花菜・金時にんじん・京たんご梨」が「京都ブランド」を名乗って良い事になっています。
これらに久美浜メロンや丹波松茸、宇治茶などを足したら、「京都の農産物大集合」って事になるのですが、私が思いもしない物が入っていたりして驚きです。
今回は独断と偏見で「私が京都の特産だと思っている作物」について、簡単に御紹介することにします。カッコの中は旬の時期です。
京たけのこ(3〜5月)
京たけのこの始まりには2つの説があります。一つは1654年に黄檗山万福寺(宇治)の開祖・隠元が猛宗竹の母竹を日本に伝え、西山の麓一帯に定着させたという説。 もう一つは遣唐使として唐に渡っていた僧が竹を持ち帰り、長岡京市の奥海印寺辺りに植えたのが始まりと言うものなのですが真相は如何に?
京たけのこが育つのは『粘土質』で酸性の土壌です。 土の重さでなかなか土の中から出て来られない為、土中にある間に竹の子の 『アク』が全て抜けてしまいます。 他の産地のほとんどは『山土』なんですね。 ですから、京たけのこにはエグさがなく、白く、柔らかく、甘くさえあります。
京都では竹の子のシーズンが終わると次のシーズン迄、休む事なく竹やぶの手入れをします。 余分な土を取り、耕し、肥料をやり、竹やぶ一面にワラを敷き詰め、その上から薄く土をかけます。全て手作業。 まさに日本一に相応しいと思っていますが、手前味噌?
木の芽和え、若竹煮、てんぷら、焼き筍、刺し身など、幅広く利用されます。
宇治茶(4〜7月)
野菜では有りませんが、京都の伝統と文化を担った作物ですから、紹介しておきます。
宇治茶は鎌倉時代の中頃、栂尾の明恵上人が宇治に茶種を分栽したのが始まりだとされています。 生産量は知れているのですが、玉露、碾茶、かぶせ茶などの高級茶が中心で、風味・味では他の追随を許しません。
桂うり(5〜6月)
こちら、調べてみるまで私も良くは知らなかったんですが、江戸時代から桂離宮の近くで作られていた品種で、長さが90cmにもなる大型瓜だそうです。 肉が厚くて軟らかく、瓜特有の芳香と甘みが強いのだそうです。 歯切れ良いのが特長で、奈良漬に最適だとか。
伏見とうがらし(5〜9月)
「ひもとう」と呼ばれることもあります。 「ししとう」に比べて長い姿をしているから「紐」なんでしょうね? とうがらしの中では最も長く育つ品種だそうです。 すでに1684年の書物「雍州府誌」に「山城の国、伏見辺りで作られたものが有名」と書かれていますが、由来は良く判りません。
このとうがらしには甘みがあり、全く辛くありませんから、マニアには物足りないかも。 焼き物・煮物・炒め物などに利用される他、葉も佃煮やお漬け物にして食べることができます。
賀茂なす(5〜9月)
大きくて丸く、一コ250〜300gほどにもなる、茄子らしくないお茄子です。 最近、他地域の食料品店でも見かけますから、御存じの方も多い事でしょう。
こちらも江戸時代の書物に登場しています。 もともとは「洛東河原(左京区の南の方)のものが良い」とされていたようですが、上賀茂の農家の皆さんが大切に育て続け、「賀茂なす」という名になったようです。
鹿ケ谷かぼちゃ(6〜8月)
「鹿ヶ谷(ししがたに)」は京都五山の送り火・大文字で有名な如意ヶ嶽の麓。 鹿ヶ谷かぼちゃには150年の歴史があるそうです。 粘質が強くてで煮くずれしないのが特徴なのですが、形がまるでひょうたんのようで面白く、食べる以外に置物や飾り、花材や画材として利用されています。
万願寺とうがらし(6〜8月)
こちらは比較的新しいのですが、すでに京野菜としての地位を得ていますね。 原産は京都府北部の舞鶴らしいです。 大正末期、伏見とうがらしと別種の大型とうがらしが交雑してできたのではないかと言われています。 かなりでっかいとうがらしですが、軟らかく甘みがあり、種が少ないのが人気の秘密です。 形の面白さも人気で、焼く、煮る、炒めるなど色んな使い方ができます。
京山科なす (6〜9月)
京都で「なす」といえば京山科なすの事です。 賀茂なすは高級野菜ですが、こちらは一般的で、焼き茄子になったり、お漬け物になったり、田楽になったり、煮物になったりと大活躍です。 種も少なく、皮も薄いので食べ易く、身体を冷やす食べ物ですので、夏場には欠かせません。
丹波栗(9〜10月)
こちらは超有名の果物(?)ですね。野菜ではありませんが、京都を代表する作物の一つです。 「丹波」は京都市から西や北西方面、現在の亀岡から綾部ぐらい迄を指すのでしょうか? 明智光秀の領地で有名でしたね。 この丹波栗は奈良時代の記録にも登場するほどで、京野菜でももっとも古い歴史を持っていると言えます。 栗ご飯やゆで栗などが美味しいですね。
紫ずきん(9〜10月)
こちら、新顔です。 丹波の黒大豆・枝豆の改良種だそうです。
豆が薄紫色で、頭巾のような形をしているので命名されたのだとか。 畑のお肉の改良種ですから、たんぱく質はもちろんビタミンCやカルシウムも豊富です。 私的にはビールのお供に最適かと。
丹波松茸(10〜11月)
秋の味覚の王様と言われますが、「嗅覚の王様」じゃないでしょうか。 一本2〜3千円ぐらいから3万円近いもの迄ピンキリです。 が、高くても風味・歯ごたえは納得。 丹波産は全世界を通じても最高の品質と言っても過言ではないと思っています。
やまのいも(10〜11月)
「とろろ汁」にするヤツですね。 京都では「つくねいも」とも呼ばれています。 「天の橋立」で有名な宮津市で古くから栽培されているらしいです。 和菓子の材料としても使われます。
が、あたくし、この系統のおいもさんにアレルギーがあるものですから、食べた事ありません! 悪しからず。
堀川ごぼう(10〜12月)
江戸時代、秀吉が贅を尽くして建てた聚楽第が取り壊された後、廻らされていた堀に京の住民たちがゴミを捨てていたと言います。 そのゴミの中にまだ新鮮なゴボウがまぎれていたのです。 これがゴミの栄養分で巨大なゴボウに生長し、それを見つけた農民が大切に育て、受け継いで来たのだとか。
堀川ごぼうは太く、柔らかく、しなやかで、普通のごぼうのような使い方はあまりしません。良く煮物になって出て来ますね。
えびいも(10〜12月)
祇園八坂神社の裏手にある有名料理店、平野家「いもぼう」。 こちらの御先祖にあたる平野権太夫が九州長崎から持ち帰られた里芋の種を預かり、大切に育てているうちに、皮に縞がある大きな海老のような形をした芋が取れるようになったのが始まりです。
本当にエビと見まがうような模様ですが、実は里芋で、栽培方法が違うだけなのだとか。 粘り気が強く風味豊かな芋。 まさに京の逸品と言えます。
京都大納言小豆(10〜12月)
丹波の大納言。こちらも有名どころですね。 煮崩れしにくいので、つぶあんに最適だそうで、京菓子などの高級菓子作りには無くてはならないものですね。 が、あんこに弱い私はあんまり食べた事ありません。 でも、普通のあんこより風味が良く、少し違う香りがするように思います。 煮豆や赤飯にするとツヤツヤ。
聖護院かぶら(10〜12月)
千枚漬けと言えば聖護院。 聖護院と言えば聖護院かぶら。 千枚漬けの元はこの蕪です。 かぶらの変種だそうで、江戸中期頃から、聖護院あたりで作られていたそうです。 千枚漬け以外にも「かぶら蒸し」や「鯛かぶら」などにして食べます。
聖護院だいこん(10〜1月)
170年くらい前に、尾張の国から奉納された長大根を、京都の農家が聖護院辺りで栽培するうちに、大きく真丸な大根になったとか。 この辺りの土、アブラナとかダイコンとかに適してるんでしょうか? それとも、適して無いからこうなるんでしょうか??? 苦味がほとんど無く、少しだけ甘みがあり、煮崩れしにくいのが特長です。 「ふろふきダイコ」大好きです。 「おでん」でもいただけます。 生で食べたり、お漬け物にしたりもできます。
みず菜(10〜3月)
江戸時代の書物に京都南部の東寺や九条辺りに品質の良いみず菜が栽培されていたことが記されています。 軟らかくシャキシャキしてて、肉の臭みを消す効果があり、京野菜の代表ともいえます。 が、苦味があるので食べにくいとか、不幸事に使うとか、いろいろ聞きますので御注意を。 私はみず菜のお漬け物がないと話にならないと思っていますが・・・。
壬生菜(10〜3月)
新撰組と言えば壬生。壬生と言えば壬生菜・・・。 さっきと同じパターンになってしまいました。 壬生寺付近で多く栽培されていたのでこの名があります。 葉が細長くヘラのような形をしているのですが、もとはみず菜の自然交雑で生まれたそうです。 もう1200年も前の事らしいのですが。 ほんのり辛子の香りがあって、昔から京漬物の中でも千枚漬けなどに添えられ、高級品として扱われています。
くわい(11〜12月)
京都府の南部・南山城村の名産です。 その形から「良い芽が出ますように」との願いを込めて、京都のおせち料理に必ずと言っていいほど入っています。 甘みと特有のほろ苦さが特長で、煮物、揚げ物、鍋物に使われます。 かつては京都の市内あたりも産地だったそうで、南区の東寺周辺の名産だったとか。 もっとも、半世紀以上も前の話ですが。
九条ねぎ(11〜2月)
今の南区・九条辺りで多く栽培されていたのが名前の由来です。 今日でも、この辺りを通り過ぎると、ヒョンな所にネギ畑があったりします。 京都でのネギ栽培の歴史は相当古いものがあり、約1300年前の和銅年間には既に始まっていたようです。
九条ねぎは青ネギの代表品種。 関東の白ネギと対象的に葉の内部にぬめりがあり、ネギ本来の甘みと軟らかさを持っていると言われます。 根っから京都人の私は白ネギが食べられない人なんです(焼き鳥のみ食べられる!)。 辛いんだモン!
新丹波黒大豆(11〜3月)
おせち料理に入っている黒マメはこれですね。 大粒で、まるで鏡のようにツヤがある炊きあがりになります。 そういえば、わざとシワを入れて炊き上げる地方もあるそうですが、少なくとも我が家ではツヤツヤでした。 とても甘みが強くて、煮炊きにしても型崩れしません。 豆ご飯などにも使われますね。
花菜(12〜1月)
こちら太閤秀吉の時代から、冬の切り花として栽培されていた「伏見寒咲なたね」の蕾だけ摘み取ったものです。 「春」をつげる食材として、料亭などでも利用されています。
「菜の花漬け」も、季節を彩る京漬物としてすっかり有名になっていますね。あのほろ苦さがたまりません。
・・・っと、こんな所でしょうか。 随分長くなってしまいました。 食道楽の私ですから、ご容赦を。
京野菜を使ったレシピを紹介するサイトが有りますので、書いておきます。親しんでやって下さい。美味しいですよ!
京野菜レシピを紹介しているサイト
京都が好き:京都が好きショッピングモール内